美輪明宏の世界【愛の大売り出し2018】
毎年行われている美輪明宏の秋のコンサート。
今年は『愛の大売り出し』と題されたシャンソン中心の音楽会となっています。
東京池袋にある芸術劇場のプレイハウスで行われた千秋楽に行ってきました。
幕が上がる直前に、とても心地よい香りがどこからともなく場内に漂ってきます。
いったいどこからこの香りが流れてくるのかと不思議に思っていると、ほどなく幕が上がり、クジャクの羽を模ったセットに様々な色のライトが当てられ、美しく演出されたステージに美輪明宏が登場します。
ステージは2部構成で、途中、休憩時間が設けられています。
1部は約1時間ほど。
シャンソンを1曲歌う前に、その曲の背景、ドラマを美輪明宏が語ります。
その語り口は時に舞台の演劇のようだったり、人生相談への答えだったり、観客は思わずその世界に引きずり込まれていってしまうのです。
曲よりも語りの方が長いので、2部通しても曲は全部で10曲ほどだったでしょうか。
シャンソンはほとんどなじみがないのですが、曲の情景を語ってもらってから聞くことができるので、歌詞がすんなり入ってきます。
シャンソンには、他のジャンルの音楽よりも深いストーリー性があるのですね。
年齢もかなりのお年のはずなのに、声量が半端なくすごい。
そして、なんといっても『愛の賛歌』は本当に素晴らしいです。
これを生で聞けるだけで、今日来た価値があるというもの。
そして、アンコールは『ヨイトマケノウタ』。
数年前に紅白で黒の衣装だけで歌った、あの歌です。
片親で貧しい家庭の子どもが学校でいじめられ、母親になぐさめてもらいたくて泣きながら母親が働いている工事現場に向かいます。
すると、そこには周囲の人からひどい扱いを受けながらも、子どものために懸命に土方仕事に汗を流す母親の姿。
子どもは、そんな母親の姿を見て、泣きながら母になぐさめてもらいに来た自分を恥じ、涙を拭いて学校へと戻っていくのです。
昔、美輪明宏が子どもだった頃に実際に見た情景だったそうで、なんともいえない臨場感に湧き上がってくる感情で、会場が涙に包まれます。
歌のラストにはスタンディングオベーション。
そして、舞台の幕が下りるのでした。
テレビで数回見たことはあっても、実際に生で聞くのは今回が初でしたが、生の迫力は震えがくるほど衝撃的でした。
地から突き上げるような太い声も、女性のように優しい高い声も自在に操る、美輪明宏の実力は生で聞かないと実感できないでしょう。
そして、最後にステージ上に現れる天国のような美しい演出。
神々しく、光り輝くクジャクに囲まれ、銀の紙吹雪の中で手を合わせる美輪明宏はまるで観音様のようです。
これもまた、実際に足を運ばないと拝むことができません。
演劇のようにドラマティックなシャンソンと、スピリチュアルで圧倒的な美しさを持つステージ。
それが美輪明宏なのだと、これが美輪明宏の世界なのだと、確かに理解できた秋の一日でありました。